介護の現場でよく聞かれるフレーズのひとつが、「ご飯はまだ?」という言葉です。特に認知症の方は、食事の後でも何度も同じ質問を繰り返すことがあります。この記事では、なぜ認知症の方が「ご飯はまだ?」と繰り返すのか、その理由と対応法について、介護職員としての視点も交えて詳しく解説していきます。
なぜ「ご飯はまだ?」を繰り返すのか?
1. 記憶障害による食事の記憶の欠落
認知症の方に見られる代表的な症状のひとつが「記憶障害」です。直近の出来事を覚えておくことが難しくなり、食事を済ませたこと自体を忘れてしまうケースがあります。そのため、ご飯を食べた直後にもかかわらず、「ご飯はまだ?」と繰り返し尋ねてしまうのです。
2. 時間の感覚の喪失
認知症の方は時間の流れを把握するのが難しくなることがあります。朝食と昼食の区別がつかない、夜中に起きて「夕飯は?」と尋ねるなど、実際の時間と本人の感覚が一致していないこともよくあります。
3. 安心を求める行動
「ご飯はまだ?」という問いかけが、実は「ここにいていいのか」「安心して過ごせるのか」といった気持ちの裏返しであることもあります。不安や孤独、さみしさがきっかけとなって同じ言葉を繰り返すケースも多いです。
4. 生活リズムの乱れや過去の習慣
昔から決まった時間に食事を取っていた方が、施設のリズムに馴染めずに混乱することもあります。たとえば、農業をしていた方が「朝4時にご飯を食べるのが当たり前」だった場合、早朝に「ご飯は?」と聞くのも自然な反応です。
介護職員としての対応方法
1. 否定せず、安心を与える声かけを
「さっき食べましたよ」と否定するのではなく、「もうすぐご飯ですよ」や「今ちょっと準備中なんですよ」と、安心できる返答を心がけましょう。否定されることで不安が強まり、怒りや混乱につながることもあります。
2. 視覚的に確認できる工夫を
食事をした時間をホワイトボードやメモ帳に記録して、目に見えるようにしておくことで、本人が納得しやすくなります。「●時にご飯を食べました」と書いてあると、自分で確認することができ、同じ質問を減らせることがあります。
3. 飲み物や軽食で気持ちをそらす
「お腹すいたのかな?」と感じたら、温かいお茶や小さなおやつを用意してあげるのも一つの方法です。食べたことを忘れていた場合、少しでも口に入れることで満足し、「ご飯はまだ?」の頻度が減ることがあります。
4. 繰り返しを責めない環境づくり
介護職員として大切なのは、「また言ってるな」と思わず、繰り返しの言葉の裏にある感情を想像することです。スタッフ間でも情報共有し、チームとして落ち着いた対応ができるようにしておくことが理想です。
家族の理解と協力も大切
ご家族が訪問された際に、「なんで何度も言うの?」と指摘される場面もあります。そうした時には、「これは認知症の症状の一つで、ご本人に悪気はありません」と丁寧に伝えることで、介護の現場との信頼関係も築かれます。
まとめ|「ご飯はまだ?」の奥にある思いをくみ取る
認知症の方が繰り返す「ご飯はまだ?」という言葉は、単なる質問ではありません。不安、寂しさ、記憶の混乱など、様々な気持ちが込められている可能性があります。介護職員としては、その言葉の裏にある思いをくみ取り、優しく、安心感を持って対応することが求められます。
認知症の介護は一筋縄ではいかず、日々の対応に悩むことも多いですが、「今日も落ち着いて過ごせた」と感じられる日が1日でも増えるよう、工夫と寄り添いを重ねていきたいですね。