先輩が怖い?をふわっとほどく本|介護現場の対人ストレスを小さくする〈やさしい手引き〉

ここでは“専門用語はできるだけ使わずやさしい語り口で、新人さんも先輩も最後まで読みやすい形にまるっと書きました。合言葉は――「こうしていきましょう」。つまずきやすい場面ごとに、すぐ使える言い回しや、小さなコツも添えました。
はじめに:そのドキドキは“ふつう”
初めての介護の職場。先輩がテキパキ動く横で、何をしていいか分からず硬くなる――あの感じ。「さっさと片づけて」「前に教えたよね?」と言われると、心がぎゅっと縮みます。
でもね、それはあなたがダメだからではありません。介護は「目の前の人の命と生活」に触れる仕事。スピードも安全も大事だから、言葉が短く強くなりやすい環境なんです。緊張するのは当然。まずはここから出発しましょう。

ドキドキしてもいいんだよね? ぼくも初日は固まっちゃうかも…!



うん。まずは「ふつうに緊張するもの」と知っておくこと。それだけで心が軽くなるよ。
1. 新人の最初の一歩は“走らない”
こうしていきましょう
- 最初の30日間は「見る・聞く・覚える」だけでOKにします。施設のルールとしてそう決めておくと、先輩も新人さんも気持ちがラク。
- その間にやることは3つだけ。
1) 人の名前を覚える(利用者さん・スタッフ)
2) 毎日の流れを眺めて書く(朝・昼・夕の動き)
3) 会話する(“こんにちは”から始める)
小さなお話
初日、コップを片づけていいか分からず固まっていた私。30日眺めてみて分かったのは、「右の台は服薬待ち」「左の台は洗い場へ」が暗黙のルールだったこと。見る時間をもらったら、自然と体が動くようになりました。
合言葉:ゆっくりは、いちばんの近道



はじめの30日って、見るのが仕事! これならぼくにもできそう〜。



うん。焦らず「人・流れ・言葉」を集める期間にしようね。
2. 迷子にならない“朝5分”
こうしていきましょう
出勤したら1分で今日の役割を確認、3分で優先順位をそろえる。口に出すと早いです。
言い方の例
「おはようございます。今日は配膳→下膳→洗い場の流れで合っていますか?」
「いま優先の3つを先に教えてください。残りはあとで確認します。」
これだけで“やることが見える”ので、心のざわざわが半分くらいに減ります。



「優先の3つください」って、魔法みたい!



予定を合わせる合図だね。先輩も答えやすい言い方だよ。
3. 「聞き方」を変えると、先輩の顔がやわらぐ
こうしていきましょう
“はい/いいえ”で終わらない聞き方をします。選択肢をこちらから出すと、先輩は答えやすくなります。
言い方の例
「Bさんのトイレ誘導、食前と食後のどちらが基本ですか?」
「オムツのテープ、上→下と下→上、どちらの順番がやりやすいですか?」
NGをOKに変える言い換え
×「分かりません」→ ○「今分かるのはAとB。Cは確認して戻ります」
×「違います」→ ○「確認します」
ポイント: “分からない”と言うのは悪いことではありません。ただ、言い方をひと工夫。“次はこう動きます”を添えましょう。



「確認して戻ります」って便利ワードだね!



うん、前向きさが伝わる。先輩も安心するよ。
4. つらかった場面は“事実”で残す
こうしていきましょう
感情だけが残ると、夜まで引きずります。“いつ・どこで・何が・どうなった”をメモにしておくと、後で相談もしやすい。
型(メモ例)
いつ:○月○日 夕食の配膳中
どこで:食堂
なにが:先輩から「遅い」と強い口調
どうなった:手が止まって配膳が遅れ、○○さんが不安そう
このメモを持って、信頼できる先輩やリーダーに“相談”します。「責めるため」でなく「どうすれば良くなる?」を一緒に考えるための材料です。


5. その場をやさしく立て直す“魔法の4行”
こうしていきましょう
言いづらいお願いはDESC(デスク)で短く言うと伝わります。
- D:事実「さっき配膳中に“遅い”と言われました」
- E:気持ち「焦ってミスをしそうで不安になります」
- S:お願い「最優先の3つを先に教えてください」
- C:良いこと「その方が全体がスムーズに進みます」
たった4行。 “怒られた”の渦から抜けて、一緒に前を見る言い方です。



4行なら覚えられる! 困ったらデスク…メモしたよ。



練習すると、自然に口から出るようになるよ。
6. 先輩のタイプに合わせる小技
こうしていきましょう
- スピード重視タイプ:「まず最優先の3つだけ教えてください。残りはメモで確認します。」
- 安全・慎重タイプ:「根拠は安全のためですよね。声かけと手順、指さしで確認します。」
- 関係重視タイプ:「○○さんの気持ちが一番ですね。声かけの言い方をそろえましょうか?」
人は生き方分だけ“正しさ”がある。相手の“だいじ”に合わせると、コミュニケーションはすっと軽くなります。
7. 「教えた」「聞いてない」を減らす道具
こうしていきましょう
ミニ手順書を“言葉+小さな図”でつくります。A4の半分でOK。スマホで写真を撮ってもOK。
例:食後の下膳(A4半分)
1) 声かけ:「食器お下げしてもいいですか?」
2) トレー左:服薬待ち/右:洗い場行き
3) テーブル拭き→手指消毒→記録に✓
「見れば分かる」ものが1枚あるだけで、質問の回数もトーンも落ち着きます。



図つき一枚! ぼく、すぐ作ってみる〜。



写真でもOK。皆で同じものを見るのがコツだよ。
8. 叱られた心を守る5分ルール
こうしていきましょう
- 呼吸:4秒吸う→4秒止める→6秒吐く×3セット
- 足裏:足の裏に重さを感じる→椅子の背→呼吸に戻る
- 一行メモ:「今日できたこと」を1つだけ書いて帰る
- 眠る前:スマホをベッドの外へ、あたたかい飲み物を一口
大丈夫。“できた一つ”が、明日の自信になります。
9. 「怖い」を職場で小さくする仕掛け
こうしていきましょう(チームで)
- 観察の30日をルール化(“見て覚える”期間だと全員が知っている)
- メンター固定(言う人が毎日変わらない)
- 申し送りの型を1つに(観察/気づき/対応/未完了)
- 週1の10分共有(新人:気づき3つ・疑問3つ/先輩:一言アドバイス)
- 「優先3つ」朝5分を定例化
仕組みが味方なら、人混みの中でも迷子にならない。



仕組みって、やさしい鎧(よろい)みたいだね。



そう。人だけに頼らないから、ぶれにくいんだ。
10. こんなときは外に相談
こうしていきましょう
- 人格を傷つける言葉(例「頭が悪い」)
- 無視・隔離・物理的な危険
- 過度な長時間の強要
こうしたことが続くなら、一人で抱えず、管理者・人事・産業保健、自治体の窓口へ。そのためにも、事実メモを淡々と。あなたの身を守る大切な記録です。
11. 体験談から拾った“やさしい答え”
私が一番救われたのは、「何も教えない1か月」でした。はじめはもどかしいけれど、視野が広がると“当たり前の理由”が見えてきます。コップ一つ動かすにも、そこには小さな意味がある。それが分かると、先輩の言葉も“急がせたいだけじゃない”と見えてきました。
だから提案です。
- 最初は走らない。
- 朝5分でスタートを合わせる。
- 分からないは“次の一歩”とセットで言う。
- しんどい出来事は事実で残す。
- 小さな“見れば分かる紙”を1枚ずつ増やす。
これだけで、怖さは“仕事のしやすさ”に変わります。
12. そのまま使える“ポケットことば”
- 「いま優先の3つを先に教えてください」
- 「確認します。戻ったら報告します」
- 「今日はここまで分かりました。残りは次に練習します」
- 「安全のためこの順番でいいですか?」
- 「ありがとう、助かりました」
- 「今日できた一つは、○○でした」



ことばのポケット、満タンになった!



すぐに取り出せるよう、ロッカーに貼っておこうね。
13. 明日のためのちいさな宿題
こうしていきましょう
- 帰りの1分、“今日の良かったメモ”をスマホに1行
- 先輩の“好きな言い方”を1つ真似してみる
- 休みの日、深呼吸3セットだけは続ける
積み重ねは静かに効きます。気づけば、怖さより“ありがとう”が増えていくはず。
おわりに
「先輩が怖い」は、あなたの弱さではありません。現場が忙しく、たくさんの“当たり前”が入っているから、そう見えるだけ。走らない30日・朝5分・やさしい言い方・事実メモ・小さな紙。この5つを味方につければ、今日より明日が少しだけ軽くなります。
大丈夫。あなたの“やさしさ”は、ちゃんと現場の力になります。できるところから、一緒に始めていきましょう。



よし、明日は「優先の3つ」からスタート!



その調子。ゆっくりでいい、一緒に前へ進もう。