
介護職の「新人いじめ」は本当にあるのか?|改善のために私たちがやったこと
1. 新人いじめってどんなもの?
「いじめ」という言葉は強く聞こえますが、介護現場で語られる新人いじめの多くは、冷たい対応や不公平な扱いとして現れます。代表的な例を挙げると…
- わざと重労働や汚れ仕事ばかりを任せる
- 必要な情報を共有せず、新人を困らせる
- 挨拶や会話を返さない・輪に入れない
- ミスを必要以上に責め立てる・突き放す
- 「前にも言ったよね」と学び直しの機会を与えない
こうした行為が積み重なると、新人さんは孤立感や不安を強め、職場に馴染む前に辞めてしまうこともあります。

2. なぜ新人いじめが起きるのか?
(1)業務の忙しさ
慢性的な人手不足により、スタッフ一人ひとりの負担が大きくなりがちです。余裕のなさが言葉のトーンを強くし、指導が雑になることがあります。
(2)教える側のストレス
自分の仕事をしながら新人を教えるのはエネルギーが必要です。ベテランほど「当たり前」が身体化しているため、言語化が難しいことも。
(3)職場の文化や人間関係
「私たちの時はもっと厳しかった」という価値観が残ると、同じ厳しさを新人に求めやすくなります。仲間意識が強すぎると、新人が“よそ者”扱いされるリスクも。
3. 数年前、私の職場で実際にあったこと
今は和やかですが、数年前は気になる点がありました。たとえば…
- 新人が質問しても「今忙しい」と後回しにされ、そのままうやむや
- 人によって教え方がバラバラで、新人が混乱
- 休憩中の雑談に新人が入りづらく、居場所を見つけにくい
直接的な暴言はなくても、“空気”として辛い。そんな雰囲気が確かにありました。

4. 改善のために私たちがやったこと
(1)新人担当を固定する
「毎回教える人が違うと混乱する」という声に対応し、一定期間は指導担当を固定。指導内容を共有し、進捗を見える化しました。
(2)業務マニュアルの整備
口頭説明の抜け漏れを減らすため、写真や図を多用した手順書を作成。新人が自走的に確認できる環境を作りました。
(3)小さな声かけを習慣化
「ありがとう」「助かったよ」を意識的に。関係の温度が一段やわらぎます。感謝は“最速の心理的安全性づくり”。
(4)スタッフからの匿名フィードバック
数か月後に匿名アンケートを実施。「やりづらさ」を早期に拾い上げ、翌月の改善につなげました。
(5)まずは業務より「人との関わり」から(当施設の方針)
うちの施設では、新人さんが入ってから最初の1カ月間、あえて業務を教えません。 この期間は、職場の雰囲気・1日の流れ・利用者様との関わりを最優先に過ごしてもらいます。
理由はシンプル。初めての環境で多くの業務を一気に詰め込むと、心も頭もパンクしやすいから。介護は「人と人との関わり」が土台にあってこそ機能する仕事です。まずは、利用者様との会話、スタッフとの何気ないやり取りを通じて、“施設の一員として馴染む”ことを大切にします。
もちろん、人手不足のなかでは、すぐに現場に入ってほしい気持ちがあるのも事実です。それでも私たちは、短期の即戦力化より、長期の定着・信頼関係の形成を優先。結果として、離職が減り、OJTの質も上がりました。
1カ月フェーズの目標
・利用者様の“好き”“苦手”を知る/生活リズムを把握
・スタッフの呼吸・介助の声がけ・連携の動線を観察
・困ったら声を出す練習(報告・連絡・相談の型づくり)

5. 今の職場はどう変わったか
この取り組みを数年続け、新人さんが安心して質問できる空気が根づきました。担当固定とマニュアルにより、教える側のストレスも減少。
結果として離職率が下がり、「ここなら続けられる」という言葉をもらえるようになりました。
6. 新人いじめをなくすために大切なこと
- 忙しさのなかでも「声かけ」を忘れない(感謝は最強の潤滑油)
- 新人の立場で設計する(1カ月は人間関係の基礎づくり)
- 指導者も守る仕組み(担当固定/進捗共有/マニュアル)
- フィードバックの仕掛け(匿名・定期・すぐ反映)
7. おわりに
介護職の新人いじめは、どの現場でも起こり得る課題です。しかし、それは「当たり前」ではなく、職場全体の意思と仕組みで減らせるものだと、私たちの施設の変化が証明しています。
人を急がせる前に、人を迎え入れる。 この視点が、結局は一番の近道でした。
もし今、あなたの職場に似た課題があるなら、まずは一歩。1カ月の“人間関係フェーズ”を設けることから試してみませんか。未来の介護現場がもっと温かく、笑顔で働ける場所になりますように。
(おまけ)かいごん × しんさつさんの小話

しんさつさん、本当に最初の1カ月は業務を教えないんですか?



そうよ。まずは人を知る。雰囲気、生活リズム、声かけの温度。土台ができれば、仕事は何倍も吸収が早いの。



なるほど…一気にゴールを目指すんじゃなくて、じっくり歩いていく感じなんだね



それと、ありがとうは最強の言葉。毎日3回は言ってみて。



ありがとうございます!…あ、これで1回目ですね!(笑)