
介護士の連鎖退職が止まらない?施設ルール強化で崩れた現場と管理者の悩み
介護の現場では、「より良い介護をしたい」と思うことは誰しもが持っている自然な気持ちです。特に管理者や施設長の立場であれば、職場全体を良くしていこうと努力するのは当然のこと。しかし、そんな“正しさ”が原因で、思わぬ人間関係の歪みや退職の連鎖を引き起こしてしまうことがあります。
今回は、実際にとある施設で起きた「離職の連鎖」の事例をもとに、「ルール強化」と「スタッフの心の乖離」がどう関係していたのかを考察していきます。
施設ルールの見直しは“当たり前”のことだった
ある中規模の介護施設。
管理人さんは、日々の業務に追われながらも、職場環境やケアの質を少しずつ良くしようと奮闘していました。
中でも見直そうとしたのが「接遇(せつぐう)」の部分です。
以下のような指導がスタッフ全体に伝えられました。
- 利用者様には必ず敬語を使うこと
- タメ口は禁止
- 「○○ちゃん」などのあだ名呼びは禁止
- 赤ちゃん言葉(「よちよち」「あんよ」など)は使用しない
これらは現代の介護では決しておかしな内容ではなく、むしろ基本的な接遇マナーです。
利用者様を尊重し、“一人の大人として接する”というスタンスに立てば当然の対応でしょう。
退職の連鎖が始まったのは、ほんの1ヶ月後だった
管理人さんが新ルールをスタッフに伝えてから、最初の離職者が出るまでわずか1ヶ月。
その人はこう言いました。
「私の介護観とは違うと思いました。」
そこから半月後2人目が退職します。
「元から辞めようと考えていたので」
ハッキリとした理由は述べず、元から家庭の理由で辞めようと思ったという理由なので事実はわかりません。
そこから1週間後、3人目が辞めます。
「私は純粋に楽しく仕事したい。それが出来なくなった」
と。明らかに敬語とか嫌がる理由。
まるでドミノ倒しのように、短期間で3人のスタッフが去るという事態が起こってしまいました。

「ルールが正しい」だけでは人はついてこない
このケースで管理人さんが伝えた内容は、決して間違っていません。
むしろ介護業界では「利用者様に敬意を持つこと」が最重要視される傾向にあり、それに準じたルールです。
では、なぜこのような“正しさ”が退職に繋がってしまったのでしょうか。
理由は単純ではありませんが、一つ大きな要因として考えられるのが、
「正しさの伝え方」や「スタッフの心の準備」が不十分だったことです。
たとえば…
- スタッフの「慣れ親しんだやり方」が否定されたと感じた
- 自分の「個性」や「やりがい」が奪われたように感じた
- 「楽しく働ける雰囲気」が壊れたと誤解した
など、“感情のズレ”が起きていた可能性が高いのです。
筆者が考える「離職を防ぐルール強化のコツ」
① ルールの「背景」を丁寧に共有する
単に「敬語を使って」と命じるのではなく、
- なぜそれが大切なのか
- どんな場面で使われているのか
- 実際に利用者様がどう感じているか
など、感情を伴った理由付けを行うと納得感が高まります。
② 現場スタッフの「声」を先に聞く
ルール導入前に、
「今の接遇に自信がある?」「言葉遣いについてどう感じている?」
などアンケートや個別ヒアリングを行うことで、“対話型の改革”になります。
「一緒に作ったルール」と感じることで、納得度は段違いです。
③ 1人の成功体験を広める
新ルールを実践して「利用者様との関係が良くなった」などの事例があれば、朝礼などで積極的に紹介しましょう。
「ほら、やって良かったでしょ?」ではなく
「〇〇さんが工夫してくれて、こういう良いことがあったよ」と共有する形がベストです。
④ 「楽しさ」を奪わない工夫をする
敬語やルールが“堅苦しいもの”と誤解されないように、
- 明るくユーモアのある表現で接する
- 会話や関係性は保ちつつ敬語を使う方法を共有する
など、“楽しく・正しい”を両立できるよう意識づけが必要です。
⑤ 離職を「結果」ではなく「過程」で防ぐ
スタッフが辞めるときに理由を聞いても、「本音」は出てこないことが多いものです。
だからこそ、日々のちょっとした違和感(元気がない、会話が減ったなど)を見逃さず、早期の声かけやリフレクションの時間が重要です。
おわりに
介護現場の“正しさ”とは、一枚岩ではありません。
利用者様にとっての正しさ、スタッフにとっての正しさ、管理者にとっての正しさ…。それぞれの“立場の違い”を理解し合うことが、最も大切なことかもしれません。
離職が続いた管理人さんも、決して間違っていたわけではありません。ただ、伝え方や歩幅の合わせ方にもう少し余白があれば、結果は違っていたかもしれません。
今回のまとめ
- 介護の「基本ルール」は大切だが、伝え方やタイミングが重要
- スタッフの感情や“仕事のやりがい”を否定しない伝え方が必要
- 「納得感」や「共感」を引き出すことが、定着と離職防止の鍵
- 管理者は“両方の視点”に立つ難しさがあるが、それこそが役割